私は魔女。鍵振りかざし人々を物語へと誘う存在。
人々は私に恐怖を抱く存在となった。愛する存在さえ手中に収め理想の世界を手にすることもできた。
このカリスマな私に歯向かえる存在がいるわけがない!!さあ絶望しなさい人間達よ!
「ねえセーラちゃーん。ゲームの事で聞きたいんだけどいいかしらぁー?」
「いやあ楽しいなこりゃ。アバターに押し込めて夢を叶えられるなんてな!」
「俺は楽しくないぞ何でゲームの世界で悪夢を見ないといけないんだブツブツ……」
「うっさいわね貴方達!!!」
後ろで叫ぶ存在達は気にしなくてもいい。彼女らはあの男のついでに付いてきたのだから。しかし重要な存在であることも確かである。あの男の生涯の一部を共にした奴らなのだから説明しておこう。
まずは着物を身に纏うピンク髪の女。彼女の名前は【桐生早苗】、どうやら普通の人間ではないらしいがそれを知る必要はない。物語を見ればわかる話だ。何故彼女があの男を知るために必要なのか、それはあの男と同じ桐生を名乗る存在だからだ。
偶然の同姓ではない。どうやら彼女が言うには以前男に助けてもらったのだ。そんな彼を追い旅をしている所で私と出会った。しかし出会い方が異常な手段である。その話はまたいずれ話そう。
彼女自身の話に戻ろう。性格としては猪突猛進。何に対しても首を突っ込んでくる厄介者。しかし頭は切れるようでニヤリと笑えばいつの間にか問題が解決している時もある。
スタイルは抜群で性格以外は男女関係なく振り返る人間は多数。……まあ他男2人は反応していないようだが彼女は全く気にしていないようだ。
その次は2人の男について話をしよう。赤色の髪の男は【アリス・シュタイン】、黒髪の左目を隠す男は【リク・グヴェンダル】。
どうやらあの男とは同じ大学の学友であり、そして私達魔女の天敵である人間たちが集う組織【狩人】に所属していた奴らである。組織が無くなった現在敵対するメリットが無いから仲良くはしているがいつか再び何やらのきっかけで対立するかもしれない、そんな関係だ。目を向けるべき点としては2人はあの男に対して別々の感情を抱いている。アリスにとっては親友、リクにとっては憎むべきライバル……一体何が起こったのかは今後ゲームを通して知るだろう。
「で、貴方達。このゲームの目的は分かったかしら?」
私は怒りたい気持ちを抑え3人に問う。まともな回答は得られるとは思っていないが念のためである。
「学校の7不思議の解明!」
「シェリーを蘇らせたらいいんだろ?」
「ふん、フウガの化けの皮を剥がしてやることに決まってるではないか」
「あのねぇ……」
私はため息を吐いた。まあ理解できないのも当然だろう。自分で判断しろと言ったのは私なのだから。
「じゃあまずはアリス。まあ貴方がやりたいのなら結構だけどゲームの本分を忘れないでちょうだい。リク、まあ貴方は半分くらいは正解だからそのまま頑張って頂戴。最後にサナエ。貴方の創作に付き合ってる必要はないのよ?」
「はぁ!? 私が自作自演するわけないでしょ。貴方がフーガ経由で渡した指令でしょ?」
「いや私はそんな回りくどいことしないわよ。……そういう結論に至った話を聞かせてちょうだい」
どうやら彼女とは語弊があるようだ。早いうちに話を付けないと頭痛の種の一つになる可能性もある。ただでさえバグがあるゲームなのだから。
「きっとフウガが持って来たネタ、ねえ……」
サナエの話を要約すると。新聞部を立ち上げたのはいいが生徒が食いつくネタが少ないとNPCフウガに相談すると次の日に投書ポストに入っていたのだという。
確かにそれはその男が持って来た話と判断するのも理解が出来る。その物語は確かに私も見ていた。しかしあの時私は何も相談を受けていない。
「いや待ってくれセイラ、その七不思議のいずれかの件なんだが」
「……その噂話はほぼ事実が入っていると思われる」
男2人は真剣な顔で少し言いにくそうに割り込んでくる。最大の敵サナエに情報を渡してしまう形になるからだろう。濁しながら言うのも気持ちは分かる。
3人はそれぞれあの男、フウガの秘匿している情報を持っている。アリスとリクに関しては彼の情報のみではなく親代わりになっている生徒たちにもそれぞれ訳アリの事情がある。
しかし困った話だ。七不思議が事実ばかりだとしてそれをフウガが知りえているのだろうか。
「……フウガは貴方達が持っている正確な情報は持っているの?」
「いやウチの生徒全員の事は知らない筈」
「ふっ……俺はあの男に情報を渡す気は無い」
「エメリアから逃げる時ぜってぇフウガの所に行くくせにか?」
「その件は今関係ないだろう! 思い出させるんじゃない」
「七不思議を3人で決めたんじゃないの? 本当は」
「「それだけは絶対に無い(ぞ)」」
サナエの質問に対し息を合わせたかのように2人は同じ言葉を返す。困った話だ。
「なあセイラちゃん、もしかしてフウガってよ」
「ありえない。フウガは死んで物語となった。私の操る手駒よ」
「じゃあこのゲームの目的を話したまえ。まさか『私のフウガの全ての謎を解明してちょうだい』とは言わんよな? 駒なんだろう?」
「う……」
ここで言葉を詰まらせてはいけない言い返さなければ。しかし……。
そう私はフウガの事を何も知らなかった。魔女になる前、彼に出会った『らしく』、私は今狂ってしまいそうな程彼を愛している。
あの夜、彼を物語の一部にした時にどの人間にも行う【物語の確認】をするために扉を開いた。しかし彼の物語を閲覧することは出来なかった。ノイズのようなものが覆い尽くされほぼ何もわからなかったのだ。彼ら3人は一瞬だけ確認が出来たのだが。
私は彼を知りたかった。何故【狩人】に所属することとなり、私と出会う事となったのか。生身の彼が最後に発した言葉の通りの物語の会場を作り出し、ゲームと称し彼女たち3人を招き入れた。
『そうだな、教師としてゆっくり過ごしたかったかもしれんな。あの時の君を止めようとして入り込んだ学校の雰囲気は悪くなかったから、な』
私が日常の物語を描いた理由は彼のためだ。私が作った学園に永遠に自由に囚われてほしい。まさかそんな事を3人に言えるわけがない。
「貴方達がやりたいことをすればいいわ。ふふふ、閲覧者を楽しませることがゲームの本懐なのよ」
私は曖昧に言った後ブーイングを聞きながらプレイヤーたちの部屋を後にした。広い廊下を歩きある扉を開く。彼らに見られないよう確認をしながら扉を閉じた。
「魔女様?」
銀色のロングヘアの少女ノラは私を不安そうに見上げる。
「楽しいかしら?リリアを見るのは」私は彼女にそう質問した。彼女はリリアがお気に入りらしくずっと水鏡に映る日常の世界を見続けている。
「とーぜん楽しいです。あの子は刺激的な日常を提供してくれるですから。知ってるですよね? 魔女様のイジワル」
そう言ってノラは弱弱しく笑う。彼女の存在は勿論3人には秘匿している。そうこの子は私が秘匿する数少ないフウガの情報、彼の記憶の扉の奥にいた謎の少女であった。自分の事を妖怪と言っているおかしな子だが暇つぶしにはなる。
七不思議の七つ目の幽霊というものは彼女の事である。時々水鏡よりゲームの世界に降り立ち、旧校舎で佇んでいる。
その存在をNPCであるフウガが知る筈はないだろう。きっと学園で幽霊が出ると噂になってたような気がするから採用したに違いない。
うんそう思ったらそんな気がしてきた。堕天使も、天使も、死神だって吸血鬼だって何ならフランケンシュタインの怪物や狼男も噂になっていたじゃないか。
彼はそれを反映しただけ。そう、それだけなんだ。私はノラを椅子にしながら虚空を見上げた。
そうだ。フウガには自由に動くようにしているがそれは記憶によって作られた再現体なのだ。セイラ、しっかりしなさい。
確かにいくつか世界にバグのようなものが存在するがそれはまたこの物語の土台を作った製作者に問い詰めればいいだけ。私は悪くない。
さてと、次はどういう物語を描くように動かそうかしら。学園モノといえば……修学旅行、遠足、運動会、文化祭とかどうだろう。
シロとクロと一緒に考えましょうそうしましょう。