「ええっとそろそろ会議の時間だよね?」
「ガウ」
生徒会室。中央に大きな白い机が置かれ3人の少年たちが座っている。
最初に口を開いたのは銀髪の青年ヴィクト。その隣にくっ付いているのは茶色い髪をオールバックにした青年。そんな2人の前に透き通るほど白い色の髪を短く切った少年が天井の一点をぼんやりと見つめている。
「おーいルチルくーん」
「聞こえてますよ。あ、多分中等部会長はファン交流で遅れてるんじゃないですか?」
ルチルと呼ばれた少年は変わらず天井を見つめながら無表情でヴィクトへ返事をする。
「またかぁ。定例会ってちゃんと昨日と今日の昼に言ったのに」
ヴィクトはガッカリして肩を落とし、ため息をつく。隣の青年はそんな彼をなだめるように肩をポンと叩く。
「大丈夫、アイツ、すぐ来る」
「君は優しいね、レオン」
「ガッカリする、ヴィー、見たくない」
レオンと呼ばれた青年はヴィクトに満面な笑顔を見せる。それにヴィクトもつられて笑う。レオンはヴィクトにとって数少ない癒しを与えてくれる存在であった。
少なくともここに訪れる面々の中ではという限定的な状態だが、ある事を除いたら自分に付いてきてくれて話し相手になってくれるので貴重な人である。
「はぁーい。遅くなってごっめーん。ファンの皆と交流してたら遅れちゃった」
笑いあったその時、扉が勢いよく開け放たれ白色のセーラー服を身に纏った少女が部屋に入ってくる。
いたずらっぽい笑みを浮かべ、入口の傍にある椅子にちょこんと座る。
「相変わらずアイドルみたいな事してるねリオちゃんは」
「みたいー? 違うわよ。私は……この学校のトップアイドルよ!」
椅子に座ったままクルリと1回転し、指を突き立てるポーズ。リオはこの学園の自称トップアイドルである。実際男子生徒中心に人気が高く、圧倒的な票差で生徒会長に就任した。毎日ファンサービスと言う名の巡回を行い、生徒たちに笑顔を振りまく。
しかしそれに対する初等部会長である少年の反応は。
「そりゃまあ1人しかいないからトップアイドルでしょうね」
「アンジェロ聞こえてるわよ!!」
「猫かぶり生意気女が人気とかこの学園も終わってます。信仰が足りません。恐ろしや恐ろしや」
「ムキー!!!!!!」
少女リオの怒りの声を少年は相変わらずぼんやりと聞き流している。
「まあまあ2人とも。じゃあ会議始めるよ。えっと今日の議題は……」
「コイツ!」「この女」2人の声が重なる。ヴィクトはため息をついた。今週もまた2人の喧嘩で時間を潰されてしまうのだろうと思いながら空を見上げる。
「いつもアイドルとか意味わからない戯言を繰り返すこの頭おかしい女が生徒会会長とか世も末です」
「はあ!? アンタだけには言われたくないわよ! 何が愛で神を信じろよ。無駄じゃないこのごり押し!」
「自己中心的な性格が原因で追放されたあなたに言われても何も痛くありません」
「なぁんですってー!!!!」
「まあまあ落ち着いてよ。僕には君たちが何言ってるか理解できないしする気はないよ。でもあんまりうるさいと……グヴェンダル先生に言いつけるよ?」
ヴィクトの言葉に2人の少年少女は一旦言葉を詰まらせる。そしてガタガタと涙を浮かべ震え出す。
「は、はぁ!? 何でお父様が出てくるのよ!」
「冗談は止めてください。嗚呼お父上、ボクはいつもいい子にしてます。そう神に聞けば理解してくれるはずです」
先程の喧嘩していた時の2人の言葉にヴィクトは苦笑する。それを見るレオンは感嘆の声を上げる。
「ガウ、やっぱ、リク先生、怖いんだ」
「僕にとってはいい人だと思うんだけどねえ。さてまあ共通の議題になると思うよ。そう新聞部について」
生徒会室内にいるメンバーは本日の議題に頷いた。
「よく追跡してきますねえ」
「僕も気が付いたらマークされてるから困ってるんだ」
ため息を吐き先程までの出来事を思い出す。隙を見せると写真を撮られ取材させろの嵐であった。致命的に何らかの支障がある、というわけではない。ただただ邪魔くさい、とヴィクトは思い、ルチルも同意見のようだ。
「ガウ? サナエ、いい人」
「そうよ私もいい人だと思うわ」
「何故?」
ヴィクトはリオの反応に対し目をぱちくりさせ、それに対し少女はニコリと笑いを見せる。
「うふふ、今週末の新聞をお楽しみにっ」
「あぁ……」
「余計なことを……」
ヴィクトとルチルはお互い見合わせため息をついた。言葉にこそ出さないが同じことを考えているように見える。
そう、『裏切りやがったなこの女』と。
レオンはそんな3人を見てただ一言ガウと言い笑った。
会議があった数日後。2人は号外として配られていた新聞に目を通す。
そこにはリオの私生活やインタビュー、最近読んだ本や買った物に部屋公開等書かれた特集ページが組まれており、毎週巻末に『今週のアイドルリオ』というページを新たに作るとの事だ。
ヴィクトは呆れたような表情を浮かべ、ルチルはゴミ箱に投げ捨てた。