まじょりがみさま

「ねえリリア守り神って知ってる?」
 リンのふとした一言から今回の3人のお話が始まる。最近学園内の少女たちで話題になっている七不思議とは違う噂話だ。リリアは首を傾げる。
「?まもりがみー?セーラさんが言ってたような……」
 先日森の中で会った不思議な雰囲気の女性、いやこの学園の理事長の言葉を思い出す。『そう。じゃあ守り神様から加護のあらんことを』、確かに彼女も守り神と言っていた。
 しかしそれに対しレイは新聞部の面々から聞いた話を持ち出す。
「……俺が聞いた話では魔女様だが」
「まもりがみまじょさま?」
「あら多分一緒だと思うけど……とりあえず私が聞いた噂では。
 この学園では守り神様が学園の人々を見守っていて、良い行いをする人には加護を、悪い行いばかりする人には裁きを与えるんですって。ザイン君は?」
「……魔女。旧校舎のある場所でおまじないとやらをするとどんな願いでもかなえてくれる。いいものとは限らない。 常に俺達の事を知らない場所で監視しているから善行、悪行に応じてそれ相当のものをくれるとか」
「同じ噂みたいね」
 2人は肩を竦める。リリアは満面な笑顔で周りを見回す。
「じゃあ今まさに私達のことを見てるの?まじょがみさま」
「リリア、混じってる混じってる。しかしその可能性、ある」
「じゃあお願いしたらかなえてくれるの?」
「かもしれないけど……リリは良い子にしてるのかしら?」
「もちろん!」
 レイは目を見開きリリアを二度見する。イタズラと称し人を困らせるとある教師の悩みの種だろう、口を開きかけたがリンはニッコリ笑い方を叩く。
「ザイン君、何も言ったらダメよ。リリは良い子。分かりまして?」
 笑っている、笑っているのだが目は笑っていない。地獄の奥底から響き渡るような迫力にレイは何も言えずただこくこくと頷くのみ。
「じゃあ何お願いしようかなあ。イタズラのネタくーださい!」
 そんな水面下の争いは何のその。手を合わせ明日のイタズラのネタを『お願い』する。2人は軽くため息を吐いた。

 暗い暗い広間に銀色の長い髪に黒色の濁った目をした少女が1人。2人の少女と1人の少年の笑い話をぼんやり見つめている。
「あらノラ、また水晶を見ているの?」
 扉が開く音が聞こえた直後唐突に部屋が明るくなる。声の主は周りに色々な日常品を浮かべ部屋に入る目つきの悪い桔梗色の少女。大人用のドレスは丈が余りすぎており少女の身体には不相応な印象を受ける。
 【ノラ】と呼ばれた少女は振り向かず気難しい表情を浮かべ判別できない位小さな声で何かを呟く。

 彼女は触れられぬ世界の存在。生を受けず死にも取られなかった不幸な■■■。  彼女を知る者は、もう既に存在しない。【魔女様】でさえも、誰も知らないか弱き少女。
 宵闇の中、物語が<反転>するまで少女を認識できる人間は存在しないのだ。


最終加筆修正:2021/9/23