番外編:図書館と少女

「セーンセ! ジークせんせー!」
「おーリリアちゃんじゃないか。半泣きじゃないかどうしたどうした」
 ある日の放課後トラウィス学園図書館。司書のジークはカウンターで突っ伏しているとリリアが扉を蹴り開け彼を揺らす。
「フーガセンセーがー! 図書館のー!」
「あーはいはい掃除して来いって言われたんだね。あとその手に持った参考書の山。分かった分かった。図書館では静かにな」
 青年は少女の頭を撫でながら宥める。そしてカウンターの上に置いていたマグカップを少女に渡しながら笑顔で言う。 少女はいつものようにイタズラをしてる所をフウガに捕まってゲンコツの後図書館で片付けと宿題増量されていた。青年は片付けは必要ないと言っているのだがフウガは構わずリリアを図書館に放り込む。
「ほら君が来るって分かっていたからホットミルクをあげよう。準備室で飲んで来なさい。整頓はいいからあっちで勉強してなさい。分からんかったら教えてやるから」
「やったー! ジークせんせ優しい!」
「へいへい変な目で見られたくないからはよ行ってな」
 準備室へ走って行く少女を青年はため息を吐いて見つめていた。やはり図書館にいる他の生徒が気にならないわけではない。あと強い2人分の視線を感じるので早く逃げたいと思っている位だ。

「ねえジークおじさん」
「? どうした分からんところでもあったか?」
 小一時間後、うんうん唸りながら参考書と睨めっこしていたリリアはジークに話かける。青年には不思議だが頭から煙が出ているように見えクスリと笑う。
「おとーさん元気?」
「お前の父親か? うん相変わらず元気だぞ」
 ジークは父親と古くからの知り合いらしく二人きりの時はおじさんと呼ばれている。だから時々こうやって少女は青年に父親の話をせがむのだ。
「父親はお前がちゃんと魔法が上達していることを喜んでたよ。近いうちにご褒美あげたいんだと」
 青年は笑顔で少女に言うと満面な笑顔になり
「本当!? じゃあ会いに来てくれないかなー」
「まあちゃんといい子にしてるからな。もしかしたら直接プレゼント持ってくるかもな?」
「!! 楽しみ!」
「そうだな……文化祭辺りとかがちょうどいいんじゃないかな。欲しいもの、あるか?」
「うーん……」
 少女は考え込む。父親に会いたい、それが先行していて特にほしいものが思い浮かばない。
「まあ今のリリアは不満なさそうだもんな。じゃあ図書館の人っぽく言い換えるか。何か好きな作品とかあるか?」
「作品? 好きな本って事? えっとー……怪盗メア!」
「あぁ確か怪盗ナイトの続編だっけ? 娘が主人公のやつ」
「うん! サナとかは好きじゃないみたいだけど」
「まあ名探偵と自称してるんだから怪盗とか好きじゃないんだろうね」
 怪盗ナイトとは神出鬼没な精巧な変装と綺麗で鮮やかな魔法を用いた手口で確実に盗みを成功させる物語であり、メアは彼の娘を描いた怪盗主人公の物語である。
 だがナイトと打って変わってドジな部分も有り、派手な魔法で周辺を吹っ飛ばし盗み出す等『雑な部分が多い』と賛否両論な部分も多い物語になっている。
「どかーんって魔法撃ってから予告状の物を盗んで帰るまでの色々なあれこれが面白いの! 途中で出会うペルちゃんも可愛いんだよー」
「うんうんそういう感想もまた有りだと思うよ僕は。そっかー怪盗、ねぇ……」
 ジークはにやりと笑い何かブツブツと呟いている。
「どしたの?」
「何でもないぞぉ。君のお父さんに伝えておくよ。それを元に何あげるか考えさせるね」
「え!? あ、ありがとうなの! ジークおじさん大好き!」
「おおう突然の生徒からの告白は困惑しちゃうなーおじさんは。じゃあほら口の悪い先生の宿題を仕上げような。文化祭で何も出来なくなるぞ」
「うー頑張るのー……」
「これが解けたらまた新しい魔法教えてやるからさ。頑張ろうぜ?」
 唐突に現実を突き付けられ少女はバタンと突っ伏したが続く言葉に笑顔で応え再び参考書と睨めっこをしていた。

数時間後。
「……で、片付けはさせなかったのか?」
「ワーク出来たもん!」
 会議等が終わってフラフラと図書館に立ち寄ったフウガはため息を吐く。
「まあまあフウガ先生や。淹れたてのコーヒーを飲みなされ」
 ジークは空気を読まずフウガにコーヒーを押し付ける。
「まあコーヒーはいただくが……ジーク、ちゃんと掃除しなさい。そろそろ整理しないと生徒が本を探せないだろう?」
「俺は場所を把握してるから案内すればいいんだよ」
「あのなぁ……」
 フウガはジークを軽く小突く。ジークはニコリと笑い
「まあリリアちゃんもちゃんとこれからお利口さんにするからさ。今回は許してやれって」
「センセ許して!」
 口をそろえて言う二人にフウガはより一層大きなため息を吐く。
「分かった。もう今日はいい。参考書は預かっておく。リリアは帰りなさい」
「はーい!」
 リリアはそのまま図書館から走り去っていく。「逃げ足速いなあ」とジークは指差しながら笑う。

「で、何の話したんだ?」
 リリアが立ち去った後椅子に座りコーヒーを1口飲む。ジークはピースサインをし答える。
「パパが文化祭にプレゼント渡しに来るから欲しいものはあるかいって聞いた」
「お前……」
「はっはっは。今のリリアちゃんは幸せに満ちてるからねえとても迷っていたよ。それよりかは、ほら」
 ジークは呆れた顔をしたフウガに1冊の本を渡す。そして耳元で囁いた。
「そろそろ遊ぼうぜ? 楽しい未来が見えたからさ。ほらほら」
 キシシと笑う緑目の男の言葉に一瞬考え込んだ直後、ニヤリと笑い―――

「ただーいま!」
「リリ! 大丈夫だった!?」
「遅かったわねリリ!」
 少女が寮に戻ってくるとリンとサナエが慌てて出迎えてきた。どうやら夕方にイタズラ未遂でフウガに連れていかれた後ジークの所に行ったのを見ていたようだ。
「何もされてない?」
「正直に言ってあのケダモノに鉄槌を下しに行きたいわ」
「えー大丈夫だよージーク先生は優しいよ! 次は2人も遊びに行こうよウチは飲めないけどコーヒー淹れるの上手!」
「もうリリったら……晩御飯、シェリーさんが待ってるわよ。ささ、一緒に食べましょ」
「こら蝙蝠、リリは私と食べるのよ」
「2人は心配しすぎなのー」
 リリアはえへへと笑いながら2人に引きずられていった。

――数日後、サナエと理事長セイラの元に1通の予告状が届く。
『秋が深まる文化祭、夜9時 鍵の秘宝を華麗に盗んでみせましょう 怪盗メア』


最終加筆修正:9/17
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